日本の五大昔話のひとつに挙げられる「かちかち山」。日本の昔話は、実際に語り継がれる伝説や神々の時代の物語を色濃く反映しており、長い歳月、数多くの学者が研究を続けています。今回は、知れば知るほど惹き込まれる、「かちかち山」の深いお話を語ります。
物語の内容を詳しく記すと長くなるので省略しますが、簡単に紹介すればこんなお話です。正直者のおばあさんを亡き者にした悪いタヌキを、正義の味方の白ウサギが懲らしめる…日本人には広く知られた物語ですね。かちかち山の原型とされる最古の文献は、「ムジナの敵討」という物語です。ただ、このお話には後半のウサギの登場がありません。実は「ムジナの敵討」の後に発刊された「ウサギ大手柄」なる絵本が、かちかち山の後半になったという説があります。つまり、ふたつのお話を繋げたのです。江戸時代の頃までは、かなり不自然だったふたつのお話の集合物語を、現在のような形にしたのが巌谷小波(いわやさざなみ)でした。近代日本児童文学の創設者で、「日本のアンデルセン」と言われた文学者です。現在語られるかちかち山の物語は、巌谷がふたつのお話を整理し、彼自身の創作も加えた内容という説が、多くの学者に指示されています。
その一方で、さらに深い説を主張する人もいます。「かちかち山」は複数のお話の集合体ではなく、「古事記」に記された神話から誕生したという説です。例えばウサギがタヌキの萱(かや)に点ける「火」、タヌキが泥の舟で沈んでしまう「水」、またウサギがタヌキの背中に塗る辛子味噌は「神螺風(からし)」という文字で「風」を表し、古事記に神の象徴として記されているのです。これを「古神道」といいますが、かちかち山にそこまで深い意味を追及する人は少ないと思いますけど…はたして?
少し変わった解釈では、あの太宰治がオリジナルの「かちかち山」を書いた事はご存知でしょうか? 彼は児童文学としてはその内容があまりにも残酷だと考え、ウサギを16歳の女性に、タヌキを彼女に憧れる中年男性に置き換えて独自の物語にしています。その舞台となった富士河口湖町に建つ太宰の記念碑には、タヌキ、いえ、中年男性が泥の舟で沈むときに叫んだ言葉「惚れたが悪いか」が刻まれております。
日本の昔話に秘められた深いお話。さて、みなさんはどの説を指示しますか?